アヤワスカ:4


朝9時に大きな鐘が村中に響き渡る透き通った音で鳴る。
今日は歌とダンスの祈りのセッション「イナリオ」だ。

今日はこの間のセッションよりも更に、正装。
女子は白のシャツに白スカートに、緑のスカーフを腰に巻きつけて銀色の王冠を被る。
男子は白のシャツに白のジャケットに白ズボン。

お姫様と紳士は連れ添って、教会へと向かう。



教会の廊下にある小さな部屋の、アヤワスカを注ぐサーバーのあるカウンタへ続く列に並ぶ。

小さなコップ半分位まで茶色の液体が注がれる。
コップを一度両手で捧げて、一気に、飲み干す!
・・・濃!!この間と全然味違うじゃん!超不味いじゃん!何だコレ!オエエ!!

「ありがとうございます。」
コップを返して、両手を合わせて、感謝。

クチを拭いながら、教会内部へ。


今日は歌とダンスのセッションなので、この間の祈りのセッションの時みたく座る為のイスが無い。
中央の大きな六角形のテーブルを中心に輪になって、祈りの歌とダンスが始まる。

歌いながら歌いながら、
右に2歩。左に2歩。右に2歩。左に2歩。右に2歩。左に2歩。
単純なステップを繰り返す。

歌の教本を借りたんだけど、見ながら歌うどころか何10ページもある教本のどのページを歌っているのかすら
全然わからない。
隣の人に聞けばイイんだけどソレすらめんどくさいので普通に諦めて教本を小脇に抱えて右へ左へ。
ただただ踊る。ただただ踊る。


30分ほどすると、アヤワスカが効き始めてビジョンが見え始める。

光。だ。
この間と同じように、相変わらず、光。だ。

森の中の小さな小さな三角屋根の小屋から、光が放射線状に溢れる溢れる。
小屋の中から大きな大きな光の玉がゆっくりと空高く飛び上がる。
光の玉は、沢山の沢山の光の粒を放っているよ。
ああ、その光の玉はまるで太陽のように、光を、さんさんと地上に降り注ぐよ。
地面いっぱいに地面いっぱいに降り注ぐよ。
私はモグラのように緑の芝生から空を見上げる。
ああ、光は、光は、平等だね。
誰にでも、何にでも、光は、平等に平等に降り注ぐね。
降り注ぐね。降り注ぐね。
前回のセッションで見た光は白黒だったけど、今日は蛍光オレンジやショッキングピンクの色の光が見えるよ。
キレイだね。キレイだね。キレイだね。


ふと気がつくと、その場に立ちすくんでいた。
いけないいけない。今日はダンスのセッションなんだ。ビジョンを見ていたいけど、頑張って踊らなきゃ。

右へ2歩。左へ2歩。右へ2歩。左へ2歩。
繰り返す繰り返す。

いつの間にか意識的に踏んでいた単純なステップは、無意識で流れるように踏めるようになっていた。


旅の間、私は日常的にビーチサンダルを履いているんだけど、今日はダンスのセッション。って事で
動きやすいように疲れにくいように、スニーカーを履いている。

スニーカー、重いな。不自由だな。

・ ・・脱いじゃおうかな・・・?

大事なセッションに、ハダシなんて失礼かな?
みんな靴を履いてる訳だし。
でも、ハダシの方が、地面をもっとくっついて感じられるよ。
ええい!
脱いじゃえ!

この日以降、私は全てのセッションにハダシで参加するコトになるけどソレはまた別の話。

右へ左へ繰り返し踊る踊る。


そして、いつの間にか、カラダは踊りながら、アタマはこの旅の事を振り返っていた。

沢山の人に出会ったな。沢山の人と別れたな。
沢山の人に助けてもらって、ようやくようやく旅させてもらったな。
みんな元気かな。2度と会わない人も沢山いるな。でもまた会えるだろう人もいるな。
みんながいたからこそ、私は旅が出来たな。ありがたいな。


そうして、記憶を辿る、旅へ。

お母さんとお父さんは元気かな。
そういえば二人とも人づきあいが苦手な不器用な人だったな。
私は2人にあんまり愛されてないと思っていたけど、今思えば、不器用なお母さんなりのお父さんなりの、
精一杯の愛し方をしてもらっていたんだな。ありがたいな。
もうすぐ赤ちゃんを産むお姉ちゃんも妹もお爺ちゃんもお婆ちゃんも、元気かな。

3年位一緒に住んだ彼は元気かな。あの頃の私達は、お互い依存し合って、あんまりステキな恋愛では無かったね。
でも、今思えば、自分の体すら、どうして良いかわからなくて持て余してしまっていた、あまりにも不器用な
アナタなりの、愛し方だったんだよね。今は大事な人がいるらしいね。アナタが幸せなら、私は凄く凄く嬉しいよ。
これからも良い友達でいられるかな。


中学校の廊下で欽ちゃん走りの練習をしていた事。一緒に住んでいた彼とケンカして、悔しいので彼が寝ている間にお尻に
変な動物の顔とかマジックで描いておいて、目が覚めたら自分のお尻にも更に変な動物の顔が描かれていた事。大学のサークルで
川原で白衣を着たまま肉弾戦花火大会とかやって発炎筒まで持ち出したら消防車とパトカーが来ちゃった事。小学生の頃からの
幼馴染の家で飲むミルクティーには必ずネコの毛が入っていた事。旅に出る前に少しの間付き合ってもらった相手との初デートは
落合博光記念博物館だった事。高校の学園祭でエロお化け屋敷をやったら問題になった事。そして高校の同級生と遊ぶ時、私だけ
いつも必ず1時間は遅刻していた事。2年前、コスメ友達と百貨店のコスメカウンター巡りをしてた事。そして旅友達とこの旅の
直前に駅前でくだらない言い争いをした事。


どうでも良い事ばかり思い出す。

でも、常にみんな、常にみんなが、ニコニコ笑っていたよね。ニコニコ笑っていたよね。


ああ、そうか。
私はココでは無いドコカに、何かがあるかも知れない。と思って旅をしていたよ。
でも違うね。違うね。
本当に大事なモノは、今まで自分がいた場所にあったんだね。
家族とか、友達とか、変わらない毎日が一番一番大事でステキなモノなんだね。
全然気がつかなかったよ。
アヤワスカは、ソレに気づかせてくれるお手伝いをしてくれたね。

アヤワスカは「ビジョンを見る」のが目的じゃなくて、イロイロ考えたり内省したり、
その上で感謝したりするきっかけをつくってくれるモノなんだね。

そしてソレはどこかにいる「神様」みたいなモノが教えてくれるんじゃなくて、
いつもは隠れている心の中のずっとずっと一番奥にいる「自分」が、教えてくれるモノなんだね。

アヤワスカは・・・1番奥にいる自分と、お話させてくれるモノなんだね。

だから・・・「アヤワスカ」や「神様」じゃなくて、結局、「自分」なんだね。



しかしココに住んでる人達は今までに何10回も何100回もアヤワスカを飲んでる訳でしょ?
今日私が気づいたような事は、とっくの昔に気づいてるハズでしょ?
じゃあ、じゃあこの人達は何でまだまだ飲み続けるの?何をそんなに祈っているの?

高い高い天井に吸い込まれるように響く歌声を聴いていて、ふと、気づく。

・ ・・この人達は、多分、多分だけど・・・
世界がステキであるよう、世界が更にステキになるよう、本気で祈ってる!!本気で願ってる!!

そして逢った事も無いような人達や、そして今後も逢うハズも無いような人達がステキな日々を送れるよう、
こんなアマゾンの奥地から本気で祈っているんだ!!!

!!!!!!!!!!!!!!!
スゲエな!アンタ達!!!!!!!!

いや私、家族とか友達とかがステキな日々であると嬉しいからそう祈れるけど、知らない人の分までは祈れないよ!
でもこの人達は本気で祈ってる訳でしょ?
マジでスゲエな!アンタ達!!


・・・じゃあ私もちょっとだけ、真似してみようかな。
ちょっとだけ、祈ってみようかな。

全ての人が、全ての人が、笑顔でいられますように・・・!!!!






んんんんん。ゴメン。やっぱり未だ、ちょっと、ムリ。
私は未だそこまで辿りつけてないよ。
とりあえず、私は自分の事だけで精一杯だよ。つーか自分の事すら出来てないよ。

ええと、とにかくとにかく、どうか、どうかせめて、自分の周りの人達が笑えますように。
笑えますように笑えますように笑えますように!!!






そうして朝9時に始まったイナリオは、祈りの言葉と共に、14時に終わりを告げる。
普通のセッションは夕方に始まって深夜に終わるんだけど、今日は日曜日。特別に朝から深夜まで1日中、行われる。
2時間の休憩をとって16時に再度、始まる。

私は宿に帰って仮眠を取る。



16時に再度大きな鐘が村中に響き渡る音で鳴る。

再度アヤワスカを飲む。

歌い、踊りながら突然、「死ぬ事」について、考える。

死ぬって、前は漠然と死ぬのは終わり。って、考えてた。
もうみんなと会えない。とか、闇。とか、ただ単純に、怖い事。って思ってた。

でも旅で死ぬような思いとか、実際に何度か死にかかったりとかして、凄く凄く遠いモノだと思ってた「死」は、
意外と普通に生きてる事と背中合わせなんだ。って、知った。

もし今私が死んだら、105歳まで生きた曾お婆ちゃんや、お母さんが言ってた、私が生まれる前に流れてしまった
お姉ちゃんに、私は、天国なりあの世なり神様のいる場所なり、空の上?かな?とにかくそういうトコで会えるんでしょ?

順番通りにいったとしたら、お爺ちゃんとお婆ちゃんが死んで、お母さんとお父さんが死んで、私や妹やお姉ちゃんや
友達が死んで、私の子供が死んで、私の孫が死んで、私のひ孫が死んで。でもみんなみんなその空の上で会えるんでしょ?

あれ?じゃあイイじゃん。
また会えるんじゃん。終わりじゃないじゃん。
あれ?あれ?あれ?

しかも人間は生まれ変わるんでしょ?色んな本で読んだよ。色んな人が言ってたよ。
何回も何回も生まれ変わるんでしょ?
家族とか友達とか、身近な人は何回生まれ変わってもいつも一緒にいられるんでしょ?
あれ?じゃあやっぱりまた会えるんじゃん。終わりじゃないじゃん。

しかも何かその空の上って、スゲエ良いトコらしいじゃん。
明るくて暖かくて穏やかでキモチ良いトコらしいじゃん。
じゃあむしろ早く行きたい位じゃん。
あれ?じゃあ闇じゃ無いじゃん。

この世に生まれて、そんで頑張ってイロイロやって、ココロのレベルをあげて、そして死んで、
でもまた生まれて、前の生で上げたココロのレベルの状態からまた頑張ってイロイロやって、
更にハートのレベルをあげて、そして死んで、
でまた生まれて、また前の生で上げたココロのレベルの状態からまた頑張ってイロイロやって、
更に更にココロのレベルをあげて、そして死んで、
何度も何度も繰り返して、ココロのレベルをどんどん上げていって、最終的には私達自身がいわゆる神様。みたいな
モノになれるんでしょ?
・・・やっぱり全然終わりじゃないじゃん。

何だよ!別に死ぬ事って怖い事じゃないじゃん。
生まれたからにはいつか死ぬ。って、むしろ普通の事じゃん。何だよ〜。


えーと、ソレで、何だ?
何度も何度も生まれ変わるんでしょ?
じゃあ例えば今日私が車に乗るじゃん。排気ガス出すじゃん。空気汚れるじゃん。地球汚れるじゃん。
ソレはいつか生む自分の子供の為に良くないな。って思ってたけど、
あれ?いつか生まれ変わってくる自分の為にも良くないじゃん。
え?自分の為に良くないの?
いやいやいやちょっと待ってちょっと待って!
そんな事言ったら私もう車乗れないじゃん!

・・・でも確かヨーロッパには排気ガス出さない車があるって聞いた事あるな。そういうのに乗ればイイのか。
日本にもあるのかな?日本に帰ったら調べてみよう。
ソレに出来るだけ自転車や公共交通機関使ったり、どこか行く時みんなで1台にぎゅうぎゅうになって行けばイイのか。
まあイキナリ車無し!とかはムリだから、ちょっとずつ、ちょっとずつ、何か、行動に起そう。

何でもちょっとずつ、ちょっとずつ。が、大事だ。

いきなり「未来の地球の為に!」とか何か大きな事をやろうとしても、スグに挫折するの目に見えてるしな。
えーと、いつかの「自分の為」に、とりあえず私にでも出来そうな簡単な事って何だ?
電気をこまめに消す事。水道の蛇口をこまめに締める事。外でもマイ箸を使う事。
スグにゴミになるようなムダなモノは買わない事。コンビニで1円単位とかのお釣りを募金箱に入れる事。

・・・ソレ位なら、今日からでも出来そうだな。
まあ「やるぜ!」とかあんまり気負わず、ココロがける。つうトコから始めてみよう。
そのウチ自然に出来るようになるだろう。

ねえ?ちょっとずつ、ちょっとずつなら、何とかやってゆけそうじゃん?自分!


何だ。何だよ。
何かそういうのわかったら生きるのちょっとラクになってきたぞ。イエーイ!
いやあ、何か本当に全部が全部、上手くゆくような気もするぞ。イエーイ!


右へ2歩。左へ2歩。右へ2歩。左へ2歩。
踊る踊る。踊る踊る踊る。

ねえ?本当に本当に・・きっと全部上手くゆくよね?
きっときっと・・・本当に本当に全部上手くゆくよね・・・!!!!!






そうして、またハグと握手の中、深夜まで及んだ1日がかりのセッションは、終わる。


夜道を1人、鼻歌混じりのスキップで家まで帰る。
門をくぐり庭に咲く黄色いハイビスカスに話しかける。
「セウドマピアに入る前に、アヤワスカが私の長かった旅のゴールかも。って思ったけど、
何だか・・・本当に本当に・・・ゴールみたいな気がするよ?」

大きな大きなハイビスカスはそよそよと風に揺れて、何だか・・・にっこり微笑んでるみたいでした。



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